さて、小田原城を後にして、憧れの温泉旅館までまっしぐら。
「今日の旅館ね、温泉がとてもいいらしいよ。大浴場にはもちろん露天風呂も付いてるし。」
「客室は全室オーシャンビューよ。眺め最高なんだって。」
「ご飯をお部屋で出してもらえるっていいよね。今日予約したのはカニコースだよ。」
「他の人の感想とか読んでみたら、評判結構いいみたい。アタリかも?」
と、サイトから得た情報を得意げに彼に教えた。
「へぇ~、それは楽しみだね。ありがとう。」
「うん一年に一度のお誕生日だからね」
こうして、彼と自分の期待値を高めていった。
有能なナビおくんに導かれて、目的地の近くまで来た。
地図から見ると、ほとんどすぐ前方だった。
目を凝らして道の両側を見つめた。
辺りはホテルや旅館がたくさん林立していたが、どれもイマイチ、パッとしなかった。
中には寂れた外見で、今にも外壁が朽ち落ちそうな位古い建物もあって、廃館した旅館らしい。
「目的地周辺デス。音声案内ヲ終了シマス。」
そうかそうか、ご苦労だったな、ナビおくん。後は自分たちで探すから休んでいいよ。
しかし、さらに5分ほど走っても、それらしい旅館は見当たらなかった。
しかも、地図上では、目的地をとうに通り越していた。
???
仕方ない、Uターンしてもう一回ゆっくり探してみよう。見落としていたのかもしれない。
「地図だと、右前方にあるはずだよな。なんかある?」
「ううん、さっき通ったときも見たけど、廃館になったやつしかなかったよ。
そうそう、ここ、ほら、おばあちゃんがほうき持って掃除してる・・・」
・・・って、えぇーーー?!!廃館じゃなくて、営業中だったのぉぉぉぉ~~~?
なんかイヤな予感。
恐る恐るその旅館の看板を見上げてみると、イヤな予感が的中した。
「え・・・と、こ、ここみたいなの。車止めて。」
「そ、そうか。なかなか風情溢れる建物だね。歴史を感じさせてくれる。ハハハ・・・
でもさ、これだけ古いってことは、老舗だよ。今日まで続けてこられたにはきっと中身がすばらしいんだよ。」
と、優しい彼はフォローしてくれた。
そのすんばらしい館内へ入ると、大勢の仲居さんたちが並んで出迎えてくれた。
これはきっとサービスがいいのね、としぼんだ期待が再び膨れ始めた。
フロントでチェックインして、部屋まで案内された。
館内はレトロな感じで、古びていたが、汚くはなかった。(当たり前のことだけど)
エレベーターが目的の階に着く度に、ガッタンと全身を震わせた。
まるで一大仕事を終えて、ハァと大きく息をしているようだ。
きっと彼もうん十年も働いて、そろそろ休みたいのかも。
乗る人からしてみれば、いつ故障して閉じ込められてもおかしくなかった。
それがまたスリリング(?)な気分を与えてくれた。
部屋は和室で、これまた古き良き時代を思い起こしてくれるような部屋だった。
特に備え付けの冷蔵庫は、昭和の雰囲気を漂わせ、
その手の市場では結構いい値がつくかもしれなかった。
窓からは、おおっ!一面の海がーーーー
建物の合間から遠くに垣間見えた。
確かにオーシャンビューには違いないが、海岸まであと2キロ近かったら、絶景と言えただろう。
夕食の時間まで2時間空いてるから、先にお風呂にした。
女湯の大浴場に入ると、硫黄の匂いが鼻を突いた。
温泉の効果が大いに期待できる匂いだった。
しかし、内風呂の湯は私には熱すぎて、一分しか浸かれず、
露天風呂ならちょうどいいかもと外に出てみた。
開放感溢れる露天風呂だった。
見上げれば、2階以上の客室の窓が見えた。(お風呂は1階)
そして付近の旅館やホテルや普通のマンションもとても親しみやすい距離にあった。
これでは露天風呂というよりも、露出風呂じゃないか。
そんな快感を決して求めてはいない。
開放感バツグンの造りに、身を隠す術もなく、湯船の中で縮こまって浸かってみたものの、
落ち着かないから、そそくさと出た。
いつも長風呂の私に、彼が不思議そうに「速かったね」と言った。
部屋でしばらくくつろいでると、夕食が運ばれてきた。
量はかなりあった。
大食漢の彼が満腹になったくらい。
でも、味はごく普通。
期待していたカニは、身がパサパサしてて味もなかった。
結局足だけ食べて、あとは全部残してしまった。(カニさん、ごめんなさい)
仲居さんが後片付けをして、お布団を敷いてくれた。
疲れが溜まっていた彼はすぐに爆睡モード。
せっかくの彼の誕生日なのに、ウェブサイトにころっと騙されて旅館選びに失敗したことを、
彼にすごく申し訳ないと思った。
それにしても、何百人もの書き込みがあって、全部サクラだとは思えないけど。
中には「部屋もお風呂も食事も眺めも、最高だった。」と書いた人もいた。
本当に同じ旅館のことなのか??不思議だ。
さらに後半へ続く・・・